
入居する介護施設の中には「終身利用」を特徴とする施設があります。
ですが、これは必ずしも「看取りまでお任せ」を意味していないことがあります。
1. なぜ「終身利用」なのに退去を求められるのか?
多くの民間施設(有料老人ホームなど)の契約書には、実は「退去条件」が明記されています。施設側が退去を求める主な理由は、大きく分けて2つあります。
① 「医療行為」の限界
介護施設は「病院」ではありません。配置されている看護師の人数や勤務時間には限りがあります。
例えば、多くの施設では夜間に看護師が不在です。深夜に痰の吸引(たんのきゅういん)が頻繁に必要になったり、24時間の点滴管理が必要になったりした場合、「安全を確保できない」という理由で、医療体制の整った病院や別の施設への転居を求められるケースがあります。
② 「共同生活」の維持が困難な場合
認知症の進行により、他の入居者への暴力行為や、夜間の激しい大声などが収まらない場合です。
自傷他害の恐れがあると判断されると、たとえ終身契約であっても「契約解除」の対象となる条項が、ほとんどの契約書に含まれています。
2. 「看取り対応」の実態:3つのパターン
「看取り実績あり」と謳っていても、その中身は施設によって全く異なります。
1.「自然な老衰」のみ対応する施設
食事が摂れなくなり、点滴などの医療処置を希望せず、静かに最期を迎える場合のみ対応可能なパターンです。
2.「一定の医療処置」まで対応する施設
胃ろう、インスリン、在宅酸素など、ある程度の医療ニーズがあっても、提携医との連携で対応し続けるパターンです。
3.「24時間看護師常駐」の施設
深夜の医療トラブルにも対応できるため、かなり重度な状態まで看取りが可能です。ただし、月額費用は高くなる傾向にあります。
「看取りまで」と一言で言っても、「どのレベルの状態まで」を指しているのかを確認することが不可欠です。
3. 契約前に必ず確認!「看取り」チェックリスト
契約書を読み解く際、あるいは見学時に施設の方へ問うべき質問リストです。
【医療体制編】
[ ] 看護師の配置時間は?
(「24時間」か「日中のみ」か)
[ ] 提携医療機関との「緊急時」の連携ルールは?
(夜間に熱が出たら即入院か、施設で様子を見るか)
[ ] 対応可能な医療処置の範囲は?
・痰の吸引(1日何回まで可能か)
・経管栄養(胃ろう・鼻腔栄養)
・インスリン注射
・在宅酸素、カテーテル管理
[ ] 看取りの実績数は年間どのくらいか?
(数字は嘘をつきません)
【契約・費用編】
[ ] 「退去勧告」が出る具体的な条件は何か?
(例:入院が3ヶ月を超えたら退去、など)
[ ] 看取り介護加算(加算費用)は発生するか?
[ ] 亡くなった後の「居室の片付け」の猶予期間は何日か?
【環境・ケア編】
[ ] 個室か多床室か?
(最期の時間を家族と静かに過ごせるか)
[ ] 家族の宿泊や24時間の面会は可能か?
[ ] 「延命治療」に関する意思確認はいつ、どのように行われるか?
4. 「良い施設」とは
実は、契約書以上に大切なのが「現場のスタッフの意識」です。
本当に看取りに力を入れている施設は、入居時(まだ元気な時)から、「もしもの時、お父様はどう過ごしたいと考えていらっしゃいますか?」と、人生の最終段階における希望(アドバンス・ケア・プランニング:ACP)について考慮しています。
逆に、「その時になったら考えましょう」と先送りにする施設は、いざという時に「うちでは対応できません、入院してください」と突き放すリスクが高い印象があります。
5. 「入院=退去」という落とし穴に注意
見落としがちなのが、「入院期間中の家賃」です。
看取りまでお願いするつもりでも、病気で一時的に入院することはよくあります。多くの施設では、入院中も居室を確保しておくために家賃が発生し続けます。
「入院が長引き、入院費と施設費の二重払いが数ヶ月続いて家計が破綻」という事態も考えられます。
・どの程度の入院期間なら席を確保しておけるのか
・その間の費用減免はあるのか
これらも「終身」を考える上で外せないポイントです。
まとめ:後悔しないために「最悪のシナリオ」を話そう
「看取りまで」という言葉は、非常に甘美で安心感を与えます。しかし、本当の安心とは、「何ができなくなったら、ここを出なければならないのか」という限界点を事前に知っておくことから始まります。
「うちは医療行為が必要になっても、往診の先生と連携して、最期までお部屋で過ごせる体制を整えています。ただし、〇〇という状態になった時だけは、専門の病院への転院をお願いしています」
このように、「できること」と「できないこと」を明確に、誠実に話してくれる施設こそが、本当に信頼できるパートナーでしょう。




